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百貨店はネットが苦手?

2022年4月27日


だいぶ前の話だが、阪神大震災の後神戸の取材を続けていた時のことだ。
震災から二か月後三宮駅前の百貨店が復旧再開するというので取材した。
10時の開店とともに長蛇の列が店内に入っていく。すると並んだ社員と客たちが再会を喜び握手をしたり、肩を抱き合っていた。涙ぐんでいる客が何人もいた。
被災後食料や衣料品などは少しずつ行き渡りだしたが、避難所や仮設住宅での暮らしは味気なく、生活の潤いを多くの人たちが求めていることは二か月の取材で感じていた。季節感やワンランク上の生活提案をしてくれる場として地域の人たちに百貨店の存在は大きな意味がある、と当時は思った。
あれから四半世紀余り、郊外型ショッピングセンターが全国各地にでき、さらにネット通販などの普及により小売りの王様と言われた百貨店の地盤沈下は著しい。すでに百貨店が消えた県もある。
新型コロナウィルスの感染拡大により長期間の営業自粛もあり、とくに主要顧客である中高年層が街に出る機会が減ったことで、百貨店は存亡の危機ともいえる厳しい経営を迫られている。
若い層を中心顧客とする専門店などではいち早くネット通販の売上比率を高める対応策を取ってきた。もちろん百貨店もそうした動きに乗ろうと努力している。しかし百貨店のネット通販の業績は実はびっくりするほど少ないのが現実だ。先日新聞に百貨店のネット通販の売上比率で1%未満というところが全体の4割という調査結果が紹介された。百貨店再生にネット通販が寄与していないことは私も取材で知っていた。
日本の百貨店は極めて地域密着型だ。鹿児島の山形屋、熊本の鶴屋、大分のトキハ、札幌の丸井今井、名古屋の松坂屋というように長く地元の人に愛されて発展してきた。また日本独特の電鉄系百貨店も小田急、京王、阪急、阪神、近鉄など沿線住民を主要顧客にしてきた。だから、地方に住んでいる人が都会の百貨店のホームページで買物をすることは考えにくい。子どものころから包装紙や広告宣伝に慣れ親しみ、親に連れられ屋上遊園地で遊び、食堂でお子様ランチを食べ、七五三や入学式の洋服を買ってもらった記憶がある地元の百貨店への愛着は強い。
この購買形態はネット通販の本質と矛盾する。ネットは極端に言えば世界中どこからでも購入できる仕組みだ。それに対し日本の百貨店のネット通販は実際の店でも買おうと思えば買うことができる近隣の顧客が、店に行かずに購入するという利用方法にとどまっている。今のままでは、ネット通販は百貨店再生の切り札とはならないのでは、と考える。
それでは百貨店の再生策は何か?
それは徹底した日本と地域の文化を商品化することだと思う。衣食住のオリジナリティを商品化することが、店舗の活性化とネットでの新規顧客開拓、そして海外からの観光客の購買喚起につながると思う。道は険しいが、ここを掘り下げる以外に手はないだろう。
。幅広くではなく、いかにネットを深堀の材料にするか、真価が問われる。